目が覚めたときから、体が重かった。まぶたを開けて、しばらく天井を見た。起きなければ、と頭のどこかで思う。思うだけで、体はどこも動かなかった。そのうちに、口の中で「体調が悪い」と言っていた。声にはしていない。舌の上で形にしただけの言葉だった。続けて、「今日は休もう」と言った。言い終わると、胸のあたりが少しだけ軽くなった。決めた、という感じがした。掛け布団を肩まで引き上げて、横になり直して、目を閉じた。窓から入る朝の光が床の隅に届いているのが、目を閉じたあとも薄く分かった。
二度目
次に目が開いたとき、枕元の時計は十時を少し過ぎていた。眠れていたのかどうかは、自分でも分からない。手を伸ばしてスマホを引き寄せると、通知が一つ届いていた。件名の頭の何文字かだけが見えた。続きを読まないまま、指が画面を暗くしていた。スマホを布団の外へ戻して、また天井を見た。もう一度眠ってしまおうと目を閉じたが、眠りは戻ってこなかった。
気づくと、「今日は休もう」と言っていた。言い終わってから、朝にも同じことを言ったのを思い出した。二度目だった。体はまだ一度も起き上がっていない。それなのに、言葉のほうだけが二回目になっている。
三回目、四回目
昼を過ぎるころには、通知は三つになっていた。どれも開いていないし、返事もしていない。数だけが増えていく。時計を見ると一時を回っていて、そのあと確かめたときには三時に近かった。あいだの時間のことは、何も思い出せない。眠っていたわけでもないのに。一度だけ画面を開いてみると、画面の中では平日がそのまま進んでいた。時間が動いていることだけ確かめて、閉じた。
窓から入る光は、床の隅から壁のほうへ、少しずつ場所を変えていった。光の位置が変わったのに気づくころには、また同じ言葉を言っている。三回目。四回目。数えるつもりはなかったのに、数えてしまっていた。
言い方も、少しずつ変わっていった。朝はちゃんと文の形をしていた。昼には「休もう」だけになった。午後には、言葉というより息に近いものになって、それでも言わないよりはましだった。朝に一度で足りるはずの言葉だった。
外から見れば
明日、誰かに「昨日は何してたの」と聞かれたら、「休んでた」と答えるのだと思う。想像の中の私は、普通の顔でそう答えている。嘘ではない。一歩も外に出ていないし、仕事もしていない。予定表の上では、何も書かれていない空白の一日だ。外から見れば、ちゃんと休んだ人に見える。聞いたほうも、それ以上は聞き返さないだろうと思う。「休んでた」で通じてしまう。横になったまま、口の中で一度だけ言ってみる。「休んでた」は、少し引っかかって残った。
おわりに
窓の外が、夕方の色に変わりはじめた。床を移っていた光はいつの間にか届かなくなって、窓の形だけが明るく残っている。部屋の中は少しずつ暗くなっていくが、電気はつけなかった。暗くなっていく天井に向かって、何度目かの「今日は休もう」を言う。何度目なのかは、途中から数えられなくなっていた。体の重さを確かめるように、一度だけ寝返りを打つ。重さは朝のままだった。
休むと決めた日だった。
体は一日じゅう横になっていた。
休んだ時間は、たぶんどこにもない。
起き上がって、窓まで歩いて、カーテンを閉めた。
『I’m fine…』という歌は、「大丈夫」と口にするたびに、大丈夫じゃないほうの自分を置き去りにしていく人の歌です。





