会議室を一日間違えた日のことは、誰にも送らなかった

会議室を一日間違えた日のことは、誰にも送らなかった

明日の日付

午後の打ち合わせの資料を持って、会議室へ向かった。

扉の小窓から中が見えて、知らない人たちがもう机を囲んで座っていた。

前のほうで誰かが話している。

今日この部屋を取ったのは、自分だった。

 

急いで席に戻り、予約の画面を開いた。

自分の名前は、明日の同じ時間の欄に入っていた。

入れたのは自分で、ほかの誰のせいでもない。

 

廊下の先に、空いている小部屋が一つあった。

会議室の前へ戻って待ち、歩いてきた人から順に

 

「すみません、部屋を一日間違えて取っていて。こっちでお願いします」

 

と声をかけた。

「はーい」と返ってきて、みんなそのまま小部屋のほうへ入っていった。

怒る人も、笑う人もいなかった。

 

揃うのを待つあいだに、持ってきた資料を一部ずつ席に配った。

一人がスマホを見て「大変ですね」と言い、何人かがうなずいて、自分も「本当に」と返した。

 

朝から、どこを開いても同じニュースがいちばん上にある日だった。

最後の一人が来ると打ち合わせは普通に始まって、部屋のことを口にする人は誰もいなかった。

 

取り消し

打ち合わせが終わって席に戻り、予約の画面をもう一度開いた。

明日の欄には、まだ自分の名前が残っている。

それを選んで取り消すと、欄は空いた。

 

済んだことで、誰にも迷惑はかかっていない。

それでも、ほかの仕事をしているあいだに、小窓の向こうに座っていた知らない人たちが何度か浮かんで、そのたびにキーを打つ手が止まった。

 

いつもなら、こういうことは誰かに送って、それで終わりにしている。

大したことではないと、自分でも分かっている。

それでも今日のこれを、誰かに一言だけ聞いてほしかった。

 

帰りに送ろうと思った。

周りが帰り支度を始めたところで、自分も画面を閉じて鞄を持った。

 

速報

会社を出て少し歩いてから、道の端に寄ってスマホを出した。

外はまだ明るくて、送るならここだと決めていた。

 

ロックを外すと、画面のいちばん上に、同じニュースの速報がいくつも重なって並んでいた。

 

遠くであんなことが起きている日に、会議室の日付を一日間違えたくらいで、自分は誰かに聞いてほしがっている。

トークは開かないまま、何も打たずにスマホを鞄に戻した。

 

また歩き出すと、電話で誰かと話しながら歩く人が一人、横を追い越していった。

同じニュース

家に着いて、テレビをつけた。同じニュースをやっていた。

リモコンを持ったまま少し見て、チャンネルは変えずにテーブルに置いた。

冷蔵庫にあった温めるだけの夕飯を電子レンジに入れ、できあがったものをテレビの前へ運んで食べた。

画面の中では、落ち着いた声がずっと続いていた。

最後まで食べて、空いた器の上に箸をそろえて置いた。

 

『in Peaceful Days』という歌は、世界や身近なところで大変なことが起きているのに、それとくらべれば平和なはずの毎日で、動けずにいる自分に苦しむ人の歌です。

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