「話長いよね」と言った本人は、覚えていなかった

「話長いよね」と言った本人は、覚えていなかった

店の前で足を止めて、スマホを出した。

 

集まりの知らせをもう一度開くと、来る人の名前が並んでいて、その中にあの人の名前がある。

会うのは何年ぶりになるのか、すぐには出てこなかった。

 

何年か前に、その人に「話長いよね」と言われたことがある。

 

その場で何かがあったわけではなく、話はそれで終わった。

ただ、それから人と話すとき、途中で一度、自分の話を切るようになった。

自分で決めたというより、気がつくとそうなっていた。

 

今日会ったら、あのことを覚えているか聞いてみようかと、来るあいだに少し考えていた。聞くと決めたわけでもない。スマホをしまって、店に入った。

 

まあ、そんな感じ

久しぶりの人たちと席に着いた。

あの人は離れた席にいて、別の人と話している。

隣の人に「最近どう?」と聞かれ、二言ほど答えたところで「まあ、そんな感じ」と言って、グラスを持った。

相手はまだ相槌の途中で、「そうなんだ」と言ってから、別の話になった。

 

向かいの人が、一つの話を最初から最後まで話した。

途中で誰かが口を挟んでも止まらずに続けて、終わったところで皆が笑った。

自分も笑った。

そのあいだ、グラスは置いたままだった。

隣

一時間ほどして席が動き、あの人と隣になった。

「久しぶり」のあとに、「そういえば、最近どう?」と聞いてくれる。

答え始めた。

 

二言ほどで「まあ、そんな感じ」と言って、グラスを持った。

その人は一拍、こちらの続きを待っている顔をして、それから「へえ」と言い、別のことを聞いてきた。

そのあとはあの人のほうが近況を話した。

長くも短くもない、普通の長さだった。

話が切れたところで、聞くなら今かもしれないと一度思った。

そのとき向こうの席からあの人が呼ばれて、「ちょっとごめん」と席を立った。

戻ってきたときには別の人と話していて、そのまま終わりの時間になった。

そんなこと言った?

外に出ると、皆が方向ごとに分かれていった。あの人は反対の方向で、同じ方向に帰る人が一人いた。その人が「じゃあ」と言いかけたところで、口から出ていた。

 

「前に、話長いって言われたの覚えてる?」

「え、そんなこと言った? ごめん、全然覚えてない」

 

あの人は笑ってそう言い、こちらは「そっか」と返した。

それで終わりで、あの人は手を振って、そちらへ歩いていった。

 

あの一言は、言った本人のものではなくて、いつのまにか自分のものになっていた。

同じ方向の人と並んで、歩き出した。

同じ方向

しばらくは二人とも黙って歩いた。

本人が覚えていないのだから、これで終わりにしていいはずだった。

並んで歩く人が、「そういえば、仕事は変わってない?」と聞いてきた。

答え始めて、相手がまだ相槌も打っていないうちに、「まあ、そんな感じ」で止めた。

 

相手は「そうなんだ」と言って、そのまま自分の話を始めた。

その話を聞きながら歩いた。

少し先の角まで来ると、相手はそちらを指して「私こっちだから」と言った。

 

「じゃあ」と言い合って、相手は角を曲がっていった。

止めた話の続きは、言わなかった。角の先の道を一人で歩いた。

 

『Echoes Don’t Define Me』という歌は、誰かの言葉が胸に残ったまま、気にしなくていいと分かっていても消えない人の歌です。

Previous

Next