朝、席に着くと、来期の希望を書く紙が一枚置いてあった。
上に希望調査と印刷されていて、書く欄は一つ、今日中に出すことになっている。
隣の席の人は、座ってすぐ何か書いて、そのまま出しに行った。
紙はクリアファイルに挟んで、いつもの画面を開いた。
昼休み、コピー機の横の掲示板の前で足を止めた。
来期からあの担当を募集していて、希望は今日配られた紙に書くように、とある。
前から貼ってあって、担当の名前はもう覚えていた。
最後まで読んで、それから昼を食べに出た。
午後、仕事の切れ目にファイルから紙を出して、欄にその名前をシャープペンで書いた。
書いた字を見ているうちに、この紙を出したあとのことが浮かんだ。
呼ばれて、小さな部屋のドアを開けて、机を挟んだ椅子に座る。
消しゴムを取って、名前を消した。
紙の表面に、字の跡が薄く残った。
画面に戻って、午後の続きをやった。急ぎのものはなく、いつもどおりに進んだ。
夕方、紙を出して、消した跡の上に「特にありません。今の業務を続けます」と書いた。
ペンを置いて、そのまま提出箱のところまで持っていった。
箱の前で、自分の字を見た。
消した名前は、光の加減でかろうじて読める程度に残っていて、その上に書いた一行のほうがきれいに書けていた。
箱に入れた。
帰り際にコピー機の横を通ると、募集の紙は昼と同じところに貼ってあった。立ち止まらずに、そのまま出口へ歩いた。
『No Place to Hide』という歌は、言いたいことを言えば、悪意が向けられる気がして、言いたいことが言えない歌です。






