今日、頼まれていた仕事は全部終わった。
やり直しはなかった。
締め切りにも間に合った。
帰る少し前、先輩に確認してもらったときも、
「うん、大丈夫そう」
と言われた。
だから、今日はちゃんとできた日だった。
たぶん。
大丈夫だった
午前中に渡された書類を、一件ずつ画面に入力していった。
分からないところが一つあって、先輩に聞いた。
教えてもらったことを手元の紙に書いて、その通りに進めた。
途中で隣の席を見ると、もう別の仕事をしていた。
自分がまだ半分くらい残していた画面を、その人はもう閉じていた。
一瞬だけ、時計を見た。
それから、なるべく隣を見ないようにした。
急ぐと間違える気がした。
間違えれば、また聞かなければならない。
だから上から順番に、一つずつ確認した。
昼休みには少し食い込んだ。
それでも終わった。
午後の仕事も終わった。
特別に褒められるようなことはしていない。
でも、失敗もしていない。
今日やるように言われたことは、今日のうちに全部終わった。
それなのに、パソコンを閉じたとき、
最初に浮かんだのは、
「今日も遅かったな」
だった。
どこまでできれば、できたことになるんだろう
隣の人は、私より早かった。
午後には別の仕事まで進めていた。
だから私は、できていない。
そう思った。
でも、少し考えると変だった。
自分の仕事は終わっている。
誰にも怒られていない。
修正も戻ってきていない。
先輩にも、
「大丈夫そう」
と言われた。
だったら何が足りないんだろう。
もっと早ければいいのか。
聞かずにできればいいのか。
言われたこと以上のことをやればいいのか。
どこまでやったら、
「今日はちゃんとできた」
と思っていいんだろう。
考えても分からなかった。
「気にしなくていいよ」
帰る前、先輩の席の横を通った。
なんとなくそのまま帰れなくて、足を止めた。
「今日、何度も確認してすみませんでした」
先輩は少しだけ不思議そうな顔をした。
「そんなに気にしなくていいよ。大丈夫そうだったし」
「はい」
声は普通に出た。
たぶん顔も普通だった。
「大丈夫そうだった」
その言葉が正しいことも分かっていた。
慰めるために言っている感じでもなかった。
本当に、大丈夫だったんだと思う。
分かっている。
分かっているのに、
駅まで歩いているうちに、その言葉はどこかへ消えていった。
代わりに残ったのは、
隣の席の人が先に画面を閉じたことだった。
今日できたこと
家に着いて、着ていた服を洗濯機に入れた。
洗剤を入れて、スイッチを押した。
冷蔵庫には大したものがなかったので、袋の麺を茹でた。
卵を一つ落とした。
鍋のまま食べた。
食べ終わってから、鍋を洗った。
ゴミも捨てた。
洗濯機が止まったので、服を取り出して干した。
そこまで終わって、時計を見ると、まだ十一時前だった。
仕事をした。
ご飯を作った。
洗濯もした。
ちゃんと一日を終わらせるためのことを、いくつもやった。
ベッドに座って、今日のことを思い返した。
それでも、最初に浮かんだのは同じ言葉だった。
「今日も何もできなかった」
おわりに
部屋の中には、干したばかりの洗濯物が並んでいる。
台所には、乾きかけた鍋がある。
会社のパソコンには、保存した今日の仕事が残っている。
できたものは、ちゃんとある。
見れば分かる。
数えれば分かる。
誰かに聞けば、たぶん「ちゃんとやってるよ」と言われる。
それも分かっている。
それなのに、
自分の中には何も残っていない。
できたという感覚だけが、どこにもない。
洗濯物から落ちた水滴が、床に小さな丸を作っていた。
ティッシュで拭いた。
それもちゃんとできた。
でも、そんなことは数えなかった。
電気を消した。
今日も一日、
何もできなかったことにして眠った。
『unfelt』という歌は、いくらちゃんとやっても出来ていないように思えて、何をやってもできている気がしない人の歌です。






