午前の入力を続けていた。
前の日に途中で止めた分で、上から順に打っていく。
横に人が立ったので手を止めると、その人はこちらの名字を言ってから、
「知ってるって聞いて」と続けた。
何のことか分からずにいると、様式の場所だと言われて、それで分かった。
共有の奥にあるフォルダの名前を、順に言った。その人は「助かりました」と言って、来たほうへ戻っていった。
戻った先で隣の人に短く何か言い、二人で一つの画面を見ているのが見えた。
手をキーボードに戻した。
自分の名字が、知っている人として誰かの口から出た。
たぶん初めてだった。
あの場所は先週、別のものを探しているうちに見つけたもので、今週使うと聞いていたから、忘れないようにメモに書いておいた。
探して、書いておいただけだった。
二人目
昼休みが明けて午後の分を打ちはじめたころ、別の人が横に立った。
午前の人ではない。
こちらの名字を言い、さっき聞いた人から教えてもらったと続けて、同じ様式の場所を尋ねた。
同じフォルダの名前を、同じ順に言った。口では場所を言いながら、頭では、先週見つけただけだと思っていた。
その人は短く礼を言って、自分の席へ帰っていった。
二人が同じことを聞きに来て、二人に答えた。
それなら知っていることになるはずだと思う。
そう思うのに、答えるより先に、先週見つけただけだという言葉のほうが立っている。二人目でも同じだった。
分からないもの
午後の分が半分ほど進んだところで、どの区分に入れるのか分からないものが一件出てきた。
手引きを開いて探し、共有の中も開いて探したが、どこにも見当たらなかった。
隣の人が休憩に立って、戻ってきて、また別の用で出ていくくらいのあいだ、同じところを探していた。
これ以上探しても出てこないと分かって、先輩の席へ聞きに行くことにして立った。先週もこうして探していたと思った。
通路で
先輩の席は通路の向こうにある。
途中で、午後に来た人の席の横を通った。
その人が隣の人に、「共有の奥のフォルダに入ってますよ」と言っているのが聞こえた。
普通の声だった。
午前に自分が言ったのと同じ場所だった。
そのまま通り過ぎた。
先輩に件名を言って区分を聞くと、先輩は自分の画面でそれを開いて、これはこっちだね、と教えてくれた。
礼を言って戻る途中、さっきの席ではもう別の話をしていた。
席に着いて、教わった区分を入れて保存した。
あの人は今日聞いたばかりで、もう人に教えている。
自分は先週探して、書いておかなければ覚えていられなかった。
同じ場所を口で言えるのに、自分のほうだけが、知っていることにならなかった。
先週の行
家に着いて、夕飯を済ませた。寝る前に鞄からメモを出して、机で開いた。
先週の日付の行に、自分の字で様式の場所が書いてあった。今日、二人に言ったのと同じ場所だった。
その下の行に今日の日付を書いて、先輩に教わった区分を書いた。
ペンを置く。
先週の行と今日の行が、同じ字で並んでいた。
『unfelt』という歌は、いくらちゃんとやっても出来ていないように思えて、何をやってもできている気がしない人の歌です。






