久しぶりに会う約束の日だった。二時に、駅の改札の前。一時に家を出れば十分間に合うと決めていたのに、支度が済むと座っていられなくなって、十二時半には鍵を閉めていた。
改札にカードを当てて外へ出ると、柱の時計は一時二十分を指していた。久しぶりだから、ちゃんと話したかった。四十分あれば、会ったら何を話すか考えておける。そう思って、時計の下に立った。
最初の一言
最初は「久しぶり」でいい。困るのはそのあとで、何と続ければいいのかが決まらなかった。ここまでどうやって来たかを聞くか、変わらないね、と言うか。いくつか並べて選んでいるあいだは、まだ少し楽しい準備に近かった。
すぐそばに、同じように人を待っている人がいた。改札から出てきた誰かがその人に手を上げて、二人は「久しぶりー」と言い合い、そのまま話しながら出口のほうへ歩いていった。
次に、「最近どう?」と聞かれたときのことを考えた。仕事は変わらないし、休みの日はだいたい家にいた。それを言ったあとに少し間ができるところまで浮かんで、その間を埋める話を用意しておこうとしたけれど、何も出てこなかった。柱の時計を見ると、一時四十分になっていた。
前に会ったとき
店で向かい合って、注文が済んで、話が途切れたところが浮かんだ。相手が何か話してくれて、自分がそれに返す。そこまで考えたとき、前に会ったときのことを思い出した。
相手が仕事のことを少しこぼしたとき、自分は「でも、いいところじゃん」と返した。相手は「まあね」と笑って、別の話を始めた。あのとき相手が嫌だったのかどうかは、今も分からない。ただ、今日も同じような返し方をするかもしれないと思うと、何を話しかけられても、うまく返せる気がしなくなった。
話が途切れるところから、何度か考え直してみた。どこから始めても、自分が何か返して、相手が少し笑って話を変えるところに行き着いた。
まだ会ってもいないのに、頭の中の自分は、もう何度も相手を困らせていた。会いたくて早く出てきたはずなのに、今は、相手が来るのが少し怖い。
改札のほうへ
電車が着いたらしく、改札から人がまとまって出てきた。一人ずつ顔を見て、相手ではないと分かるたびに、少しほっとしていた。最後の一人が出ていったあと、時計は一時五十分を過ぎていた。帰りたい、と思った。今ならまだ会っていない。鞄からカードを出して、改札のほうへ歩いていた。相手に何と送るかは、電車に乗ってから考えるつもりだった。
改札の手前まで来たとき、向こうから出てくる人の中に相手がいて、目が合った。相手は改札を抜けてまっすぐこちらへ来ると、「ごめん、待った?」と言った。
「ううん、今来たところ」と答えた。本当は、帰るところだった。
「行こっか」と相手が歩き出して、横に並んだ。手の中には、改札に当てるつもりで出したカードがまだあった。それを、上着のポケットにしまった。
『Want You, Fear You』という歌は、人と繋がりたいのに、近づくほど怖くなって、「会いたい」と「逃げたい」の両方をいつも抱えてしまう人の歌です。





