もう誰も見ていないのに、順番だけが残っている

もう誰も見ていないのに、順番だけが残っている

今日、いつもの書類を一件仕上げた。間違いはなかったし、出したときも何も言われなかった。

ただ、出したのは午後の遅い時間で、その前に同じ書類を三回見ている。

三回目を、誰かに頼まれたわけではない。今の上司に言われたこともなければ、同じ部署の誰かが確認を求めているわけでもない。

一度だけ、ある。

何年か前のことだ。

三回目

書類が回ってきたのは午前のうちで、いつもの様式だった。決まった欄に数字を写して、上から順に埋めていくだけのものだ。

一通り終わって最初の行に戻り、もう一度見直した。

間違いはなかった。

そこで出せばよかったのだと思う。

何かを見落とした気がしたわけでもない。それでも、もう一回だけ見ておこうと思って、出さずに画面を開いたままにした。

二回目も同じだった。直すところは見つからなかったのに、見終わったところでまた最初の行に戻った。

三回目は、一行ずつ指で押さえながら見た。

日付、名前、数字。

見る順番は決まっている。毎回、同じところを同じ順番で目が動く。

この順番にしたのは、何年か前だった。

そのころ、この書類のことで一度だけ言われたことがある。

「そこ、雑だね」

怒鳴られたわけではなかったし、その日のうちに話は終わった。そのあと、同じことを言われたこともない。

ふと隣を見ると、同じ書類を作っていた人が画面を閉じて席を立つところだった。

しばらくして戻ってきたときには、もう別の画面を開いていた。

自分の画面には、まだ同じ書類が残っていた。

日付、名前、数字。

また最初から見た。

一回でよかったのかもしれない

言われたのは一度きりだった。

その一度で順番を変えて、それから何年も同じようにやっている。

順番を変えたことは、誰にも言っていない。

先月もたぶん三回見た。その前の月も同じだったと思う。

そのとき、二回目や三回目で何かを直した記憶はない。

時計を見ると、昼休みが近かった。

書類はまだ机の上にあった。

何も言われなかった

ほかの仕事を挟んで、書類を出したのは午後の遅い時間になった。

受け取った人は「ありがとうございます」と言って、そのまま机の横に置いた。中を開くことはなかったので、あとで見るのかもしれないし、このまま見ないのかもしれない。

急ぎのものではなかったし、催促されていたわけでもない。

三回目を待っていた人は、たぶんどこにもいなかった。

席に戻って少ししてから、何となく控えを開いた。

日付、名前、数字。

いつもの順番で目が動いていく。

途中で、もう出したあとだと気がついた。

確認したところで、もう何も変わらない。

それでも、最後の行まで見てから閉じた。

画面が消えたあと、少しだけきまりが悪かった。

隣の席では、さっきの人がもう次の仕事をしていた。

おわりに

終わりの時間が近づいてから机の上を片づけ、使い終わった紙をまとめた。

あとは明日の分を出しておくだけだった。

紙を揃えて、いつもの場所に置く。

日付、名前、数字。

まだ何も書いていないのに、見る順番だけはもう決まっている。

あの人は、もうこの部署にはいない。

別のところへ移ってから何年か経つ。

言われたのがいつだったのかも、もう正確には思い出せない。顔も少し曖昧になっているし、ひどいことを言われたとも今は思っていない。

それでも、順番だけは残っている。

明日も、たぶん三回見る。

やめてもいいことは分かっているし、やめたところで誰にも気づかれないと思う。

重ねた紙を、いつも置いている場所に寄せた。

一枚目の日付の欄は、まだ空いたままだった。

『Echoes Don’t Define Me』という歌は、誰かの言葉が胸に残ったまま、気にしなくていいと分かっていても消えない人の歌です。

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