昼過ぎに寄った店で、かごを持ってレジの列に並んでいた。前の人の会計が終わりかけたところで横から人が入ってきて、考えるより先に「あ、どうぞ」と口から出た。その人は普通に前へ進んで、そのまま会計を済ませた。
後ろに並んでいた人は、そのまま一つ前に詰めた。自分の番が来て、かごの中のものを袋に入れて店を出るまで、特に何も思わなかった。
帰ってから、買ってきたものを冷蔵庫にしまって、夕飯を作った。食べて、食器を洗って、テーブルを拭いた。そのあいだに、さっきの列のことは何度か思い出していた。
腹は立たなかった。
腹が立たない代わりに、あの人の事情のほうが浮かんできた。急いでいたのかもしれない。列が棚のほうまで伸びていたから、並んでいるように見えなかったのかもしれない。自分がもう少し前に詰めて並んでいれば、そこが最後尾だと分かったのかもしれない。
三つ目まで思いついたところで、手が止まった。布巾をそのまま置いて、台所を出た。
明日からの予定を確かめようとして、壁のカレンダーを見た。決めていた日付は、相手の都合で二度書き直されている。そのときも「大丈夫です」と返していた。
「なんで何も言わなかったんだろう」
腹が立たなかったことにだけ、少し腹が立った。
カレンダーの端がめくれていたので、指で押さえて貼り直した。書き直した日付のところだけ、線が二本重なって残っていた。
『No Place to Hide』という歌は、言いたいことを言えば悪意が向けられる気がして、何も言えないまま日々を過ごしている人の歌です。






